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「・・・なんの用だよ。」
夜のウルタニア市街。
いつもの場所に座って星空をながめていたシルヴィアは、視線もずらすことなく言った。
「気づいていましたか。さすがギルドナイトですね。」
物かげから、一人の男があらわれた。一般人にしてはがたいが良く、夜闇に溶け込むような黒い服を着込んでいる。暗くて顔まで見ることはできないが、ひと目見てどこかの国のスパイだと分かった。
「時期を見て、ナスティ公が立ち上がられます。」
男は、なんのためらいもなく言った。
「ああ。前にフーゴから聞いたよ。」
「ほう、ウルタニア公フーゴ・フランツ殿とお知り合いですか。ならば話が早い。」
男はシルヴィアに近寄り、耳打ちした。
「お願いがあります。」
「・・・?」
「もう気づいているでしょうが、私はヒルンの人間です。」
ヒルンとは、オルゴナ大陸北東部に根を張る共和制国家である。
古くにはオルゴナ大陸のほぼ全域を勢力下に置く巨大な国家であったが、およそ200年前に勃興したアマンダス王国に領を追われ、今では僻地に追いやられて独自の文化を築いている。
「あなたとフーゴ殿に、今後こちらに与していただきたいと思いまして、参りました。」
「・・・嫌だ。あたしはもう、何にも関わりたくないんだ。」
「しかし、追手が近づいておりますよ。ギルドは、あなたがこの場所に居ることを突き止めたようです。あなたを保護できるのは、私たちしかいないと思いますが。」
「あたしは、もういい。こんなの、どっちにしろ死んだも同然だから。」
「そのように自暴自棄にならないでいただきたい。私たちとしては、あなたのような人材が失われることは、惜しい。」
男は少し熱っぽく言った。しかし、どの言葉もシルヴィアの胸には響いてこなかった。
シルヴィアは、ナスティのハンターギルドに所属する「ハンター」だった。
17歳でハンターになってからは自分が生きるにはこの道しかないと感じ、それだけに打ち込んできた。
やがて一流のハンターとして頭角を現した彼女を、ギルドは"ギルドナイト"に任命した。
ギルドナイトとはハンターギルド本部の直属組織で、ギルド内の秘密任務を行うに足ると判断された者たちが任命される。
その任命も内密に行われるため、他のハンターや権力者達はその存在を知っていても、実際に誰がギルドナイトであるのかを知ることはほとんど無い。
しかし、今ではある任務から逃亡したために、シルヴィアはギルドナイトでありながらギルドナイトに追われる身となっている。
彼女にとって、それは人生のすべてを失ったのと同然だった。
「・・・それと、一応お知らせしますが、ギルドはフーゴ殿についても何か手を下そうと考えているようです。あなたとフーゴ殿との接触も、すでに感づかれているのでは?」
「フーゴも?」
フーゴの名前を耳にしたとき、シルヴィアは数日前に会った彼の姿を思い浮かべた。
彼には、本当に世話になっていると思っていた。シルヴィアとしても、ここ数週間の彼からの好意を何も思っていないわけではない。
そんな彼が自分のせいで危険にさらされてしまっているのだ。
シルヴィアは、心が締め付けられるように感じた。
「どうか、賢明なご判断を。」
そう言って、男は立ち去った。
男が立ち去ってからしばらくの間、シルヴィアは宙を見つめながら考え込んでいた。
これ以上ウルタニアに留まれば、さらにフーゴの身は危険になるだろう。
しかし、同時にフーゴの身も案じられた。ギルドナイトならば、いくら権力者のフーゴといえども簡単に手に掛けることができるだろう。
この場に留まって、自分がフーゴの身を守ろうかとさえ思った。
(・・・そんなの、柄じゃないよな。)
シルヴィアは、いつの間にか自分が、他人を守りたい、という自分らしくない考えを持っていることを意外に思った。
そして彼女は、頭の中からフーゴを追い払った。
― 翌朝には、彼女の姿はウルタニアから消えていた。
ひっそりとカウンター置きましたw