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モゼスがペルシャナに向かった翌日のことである。
ウルタニア城の3階にあるフーゴの寝室に、不可解な書状が投げ込まれた。
小高い丘の頂上にそびえ立ち、背面を雄大なヒルコン川に守られたウルタニア城の高層階には、矢も投石も届かないはずである。何かを投げ込む手段など無い。
フーゴは、いぶかしみながらも書状を開いた。
一読してフーゴは、そんなはずは無いだろうと思った。
書状にはまず、現在王位に就いているミハルヒト王の横暴が述べられていた。
ミハルヒト王が我欲や猜疑心が強いことは、もはや民衆にすら知れ渡っていることである。この部分は、フーゴも納得ができた。
しかし、問題は次の文章だった。
王国は、封じられた「黒龍」の力を用い、世界を滅ぼせるほどの強大な兵器を生み出そうとしているというのだ。
それを用いて王国による支配を広げ、さらにはフーゴを含む諸侯からも権力を奪い取って、独裁体制を築こうとしているらしい。
末尾には、今後は黒龍の復活を感じ取って飛龍や肉食竜が凶暴化する危険性があるので注意するように、とも記してあった。
(黒龍の力なんて、すっとんきょうなことを言うな。)
フーゴは、そう思った。
「黒龍」の存在は、昔話として知っている人も多くいる。フーゴも昔、本で読んだことがあった。
数百年前のオルゴナ大陸に、「黒龍」と呼ばれる飛龍が突然現れて大陸中の都市を襲撃し、百万を数えるほどの命が失われたことがあった。 その詳細は今となっては誰にも分からないが、その後有志によって討伐されたらしい。
もっとも、現代になってしまってみれば、黒龍という飛龍が本当に存在したのかどうかすら分からなかった。そんなものの力を復活させて使うというのだから、フーゴとしてはこの話に信憑性を感じなかった。
(共和国のスパイか何かの流言だろう。)
おそらく王国への疑心を抱かせようとした何者かが、この書状を投げ込んだのであろう。
フーゴは、これを投げ込んだ者を不快に思った。そしてそれを乱雑に折りたたみ、くず入れに捨てた。
その日は、この時期のウルタニアには珍しく雨だった。
もともと海から遠く離れたウルタニアは、乾燥した気候を持っている。夏の乾季ともなれば、降雨はほとんどなくなってしまう。それでもこの地域の住民が水に事欠くこと無く生活できるのは、常に豊かな水量をたたえるヒルコン川のおかげであった。
フーゴは、この日は傘を持って巡察に出た。街の様子が気になるというよりは、シルヴィアの様子が気になった。
雨のインドラ通りは、道行く人もまばらで、雨独特の土臭いにおいに包まれていた。
しばらく通りを下ってから、彼女がいつも座り込んでいた路地に入った。
フーゴは、彼女のことを少し不安に思った。どこかの軒先を借りて雨宿りが出来ていれば良いが、彼女のような身なりでは、軒先を貸す家もなかなか無いだろう。
狭い路地を早足で進み、やがていつもシルヴィアが座り込んでいた街路樹が見えてきた。
しかし、そこに彼女の姿は無かった。
彼女が単に他の場所で雨宿りをしているのか、それとも遂にウルタニアを去ってしまったのか、フーゴには分からなかった。
しかし、不可解な書状が届けられたその日に彼女がどこかに消えてしまっていたということが、何かの因縁で結び付けられているように思えてならなかった。
フーゴは、一度は落ち着いていた心のざわめきが再び呼び起こされるのを、止めることが出来なかった。
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ひっそりとカウンター置きましたw