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翌日、ナスティに潜伏させていた側近たちからフーゴの下へ、初めての報告が届いた。
報告では、やはりナスティ公が王国に反意を持っていることが述べられていた。
しかし情報を集めたからといって、今のところ傍観する以外になかった。ウルタニアには王国にもナスティ公にもはむかう力はなく、何か行動を起こしたところで、どちらかの反感を買うことになるだろう。
それが対策を立てあぐねているように見えるのか、フーゴの周りは、いまだに落ち着きがなかった。フーゴを支えるべき重臣たちも納得してはいない。
「このまま傍観者であり続けるつもりですかな。」
仕事を片付け終わって公務室でくつろいでいるフーゴのもとを、四十路の男が訪ねていた。
顔立ちはほっそりとしているが、眼がぎょろりとつき出していて、口を開くとやや黄色に染まった歯がのぞき見えた。
フランツ家の筆頭重臣の一人、モゼス・ウェイニーである。家柄だけで今の地位を得た男で、我欲が強く、信用できない男だった。
もっとも、モゼスのほうもフーゴを認めている様子はなかった。
彼とはことあるごとに対立することが多く、筆頭重臣という地位が持つ影響力もあいなって、フーゴを悩ませていた。
「仕方がないだろう。今の我々には、どちらを選ぶ力も無いのだから。」
「ほっほっほ。若いですな。」
モゼスはほほをゆがめて笑ったが、その目は鋭くフーゴをとらえていた。
「何がおかしい?」
フーゴも、負けじとモゼスを見返して言った。
この男が何を考えているのか、どれほど考えても理解できたことはなかった。フーゴの権威をそぎ取ろうとしているように思えることすらある。
モゼスがフーゴに反対しているために、重臣たちがまとまらないことがあったのは、一度や二度ではない。
「どちらも選ばぬということは、どちらからも憎まれるということですぞ。王国とナスティ公の戦中は良いとしても、戦後、勝者はあなたを信用いたしますでしょうか?」
「では、どうすればいいと言うのだ?」
「100万をこえるアマンダス王国全軍に、せいぜい7~8万のナスティ公の軍勢が勝てるとお思いですか?たしかに、王国の側につけば我らはナスティ公と戦わねばならず、ウルタニアがかの軍勢によって占領されることは間違いないでしょう。しかし、一時的なものです。」
「だからといって、簡単に王国につけるか!ナスティ公がウルタニアの市民を虐殺しないという保証がどこにある。奴隷としてナスティに連れ去られる者の気持ちを考えられるか。私にはすべてのウルタニア住民に対する責任があり、我らには彼らを守る義務があるのだ!」
「その意気込みだけは認めましょう。」
そう言って、モゼスはまた下卑た笑みを浮かべた。
「笑うな!」
「いやいや、おかしくて笑ったのではありませんよ。
・・・明日、ペルシャナに向かい、イヴァン王太子と会見する予定です。この件については私が処理しましょう。」
「・・・最終的な決定権は私にあるぞ。」
「もちろんですとも。」
最後まで怪しい笑みを残して、モゼスは去った。
ナスティ公の圧力。動かないフーゴ。
重臣たちの不安が、支配者フーゴ個人に対する不満となって、所々から漏れ始めていた。
若いフーゴの指導力をうたがう声もある。フーゴは、今年でやっと22歳である。ウルタニア一国の舵を取るには、あまりにも経験が少なすぎる。
どこかでフーゴが支配者としての力を見せなければ、ウルタニアは内部からくずれていくことだろう。
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ひっそりとカウンター置きましたw