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この申し出は、フーゴとしても願っても無いものだった。孤独に幽閉されていたフーゴの下に、1人のギルドナイトが味方につくというのだから心強かった。
それだけでなく、彼女の存在がより身近にも感じられるようで嬉しく思えた。
「願っても無いことだ。君が私の側に居てくれるというのなら、これほど心強いものはない。
市民から死傷者を出さないためには、今すぐに皆をこの街から避難させる他に無いだろうと思う。一刻の猶予も無い。
そのために、この街を私の手に取り戻そうと思うから、ついてきてくれ。」
シルヴィアは黙ってこちらを見ていた。フーゴはそれを了解と受け取って、部屋を出た。
廊下には気絶した兵士が何人か横たわっていた。すべてシルヴィアの所為なのだろう。
ギルドナイトがハンターギルド内でも特に危険な任務や密命を帯びるものであり、対飛龍、人に関わらず常軌を逸する能力を持つことを、フーゴは知っていた。
それでもこの光景は驚くべきものであり、彼女が本物のギルドナイトであることをまざまざと見せ付けられたようだった。
同時にフーゴは、数十人のギルドナイトを擁すると言われるハンターギルドの存在を不気味に感じた。公権力とは違った形で武力と発言力を持つギルドには、常に地下世界での暗躍の噂がつきまとっている。
フーゴは、廊下に横たわる兵士が持っていた「ハンターナイフ」と呼ばれる短剣を奪いとった。
ハンターナイフは、その名の通りハンターが武器として、あるいはナタや採取用のナイフとして使用することを目的として作られたものである。安価な割に性能も良いため、多くの兵卒の武器としても採用されていた。
そして二人はそのまま、階下にあるフーゴの公務室へと向かった。フーゴから権力を奪い取ったモゼスが、そこに居るだろうと思われたからだった。
果たしてモゼスは公務室に居た。公務室のドアに向き合うようにある机に腰掛けた彼は、二人の姿を見るとギョロリとした目をさらに大きく見開いた。
「これはこれは・・・。
フーゴ殿、何用かありましたかな?その女は?」
モゼスは見開いた目を再び細め、眉をひそめた。
「彼女はシルヴィアという。
モゼス、お前が言っていた指名手配の女というのは、彼女のことだ。」
フーゴはモゼスの前に仁王立ちになった。このウルタニアで、支配者であるフランツ家を除いて一番の権力を持つウェイニー家との断絶を、彼は決断していた。現在のフランツ家の当主がフーゴであり、ウェイニー家の当主がモゼスである。
モゼスは冷静さを失いかけているのか、椅子から立ち上がって机の横に回った。
「なんと、愚かな。この期に及んで共和国の女と繋がるというのですな。
国を、滅ぼしますぞ!」
モゼスは徐々に語気を強め、最後には叫ぶように言った。しかし、彼が王国側と内通していることが予想される今となっては、その言葉がフーゴの心に響くことは無かった。
フーゴは、確かにウルタニアの今後すべてを予想することは出来ていなかったが、ナスティ公を頼るという決断に迷いを感じてはいなかった。ウルタニアが共和国との内通を疑われ、王国から攻め立てられるということも考えられるが、市民全員を守ることを妥協するわけにはいかないと考えていた。
「彼女はギルドナイトで、お前など赤子の手をひねるようにどうとでも出来る。それに、ついでだが私もこの剣を持っている。
モゼス、今すぐウルタニアを去れ。この街を守るのは私だ!」
片手に持った短剣の、そのきっさきをモゼスに向けようとすると、何者かに手首をつかまれた。
シルヴィアだった。彼女は意味ありげに片頬を上げて笑うと、フーゴの手首を握る手の締め付けを強め、もう片方の手で短剣を奪い取った。
「ヨゴレ役はあたしに任しとけよ。」
その後は、一瞬だった。彼女は瞬く間にモゼスの背後を取り、その喉元に刃先を押し当てていた。
「・・・じじい。死ぬか、あいつの言う通りにするか、どっちにしな。」
彼女の鋭く冷たい硬質な目が、モゼスの肩越しに見えた。それは紛れも無い「ハンター」の目であると、フーゴは思った。
モゼスは見る間に蒼白となっていった。
ひっそりとカウンター置きましたw