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すぐにシルヴィアの姿が脳裏に浮かんだ。それは、路地裏の街路樹の下、土ぼこりで汚れたローブ姿でたそがれる彼女だった。
フーゴは、まだシルヴィアを信じたいと思っていた。今も彼女は、フーゴとこの街のために最前線で戦っている。そんな彼女を裏切ることは、自分個人としては考えたくも無いことだった。
しかしフーゴの判断は、決して自分だけのものでは無かった。この街を守ることだけを考えると、シルヴィアを裏切ってでもニノンと手を組むのが最善だった。街中まで多数のゲネポスが散らばった今、シルヴィア1人が居たとしても市民の被害を防ぐことは出来ない。しかし、十数人のギルドナイトであればそれが出来るだろう。
考えれば考えるほど、胸の締め付けが強まった。市民を守るためには、シルヴィアを見捨てるという選択肢を取るしかないように思えた。
しかも彼女には、共和国と裏で繋がっているという疑いがあった。疑いというだけで確証は無いが、しかしそうでないという反証も無い。そうなれば、自分の”とらなければいけない道”は決まっていた。
「・・・分かった。昼に彼女を船着場に連れて行く。」
「ありがとうございます。フーゴ殿ならご理解いただけると信じておりました。」
ニノンはすぐに表情を緩め、彼女がよく見せる優しい微笑みを浮かべた。
「しかし、一つだけ約束してくれ。」
「なんでしょうか?」
「絶対に、市民たちから一人の死者も出すことなく、すぐ元の生活に戻れるようにゲネポスを退治してくれ。」
「それは、もちろんでございます。」
再び顔を引き締めたニノンが、頷きながら言った。
護衛の兵士は、何とかゲネポス一匹を仕留めていたようだった。共に城へと戻ると、じきに夜が明けた。
この頃になると敵も疲れたのか、街中に響いていた鳴き声はポツポツと聞こえるのみになっていた。もっとも、疲れはこちらも同じだった。太陽が地平線から完全に姿を現すと、グラニコスを始めとする街中に配置されていた兵士が、体勢を整えるために続々と城に引き上げてきた。
兵士の被害は負傷者が数十名と、死者が7名。西側の防備に早いうちから見切りをつけた成果もあって、市民からの死傷者は無かった。しかし、500名ほどしかいない兵士に対して、この被害は決して小さいものではなかった。改めて、独力で市民を守りきることの難しさを感じた。
引き上げた兵士の中に、シルヴィアの姿もあった。彼女は城の1階の兵士詰め所の長机で、顔や防具に付いた血を拭い取っていた。
フーゴが部屋に入ると、彼女はすぐにこちらに気づいたようだった。彼女に話しかけるのは気が重かった。
「どうしたの?疲れた?」
「・・・あぁ、少し疲れたよ。」
「ふふ、そうだろうね。」
濡れた布切れで顔をこすりながら、シルヴィアは少し笑った。そして、横に置いた木桶の水に布切れを浸し、きつく絞った。木桶の水はほんのりと赤く染まっている。
布切れを軽くたたんで机の上に置いた後、彼女はこちらを向いた。
「群れは何匹かのドスゲネポスに率いられてるみたい。あたしが探し出して、1匹ずつ仕留めるよ。」
「・・・うん、そうか。」
「・・・フーゴ、なんかあった?」
シルヴィアが、いぶかしげにこちらを覗き込んだ。心配したようなワインレッドの瞳と目が合う。その瞬間、フーゴは締め上げられるような胸の痛みを感じて、慌てて目をそらした。
(――― 私はウルタニアの領主だ。街を守るためには、どんな手段でも使わなければいけない・・・!)
フーゴは自らを励ますように、心の中で念じた。しかし、胸の痛みが和らぐことは無い。硬く強張った口元を動かして、何とか言葉をひねり出した。
「・・・シルヴィア。少し、話したいことがある。ついてきてくれないか?」
「うん?いいけど。」
シルヴィアは立ち上がり、何の疑いも持たない様子で、フーゴに続いて部屋を出た。
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