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ウルタニアの指揮権を取り戻したフーゴはすぐに市民に避難の準備を始めるように下知し、側近にあるだけの商船と軍船の出港準備をするように命じた。あるだけの船といっても、辺境の都市であるウルタニアに停泊していた商船はわずかに4隻しかなく、軍船にしても小型で、隻数も10を数えなかった。
これでは、一度に数百の市民を移送するのが限度だった。昼夜を分けずしてヒルコン川を往復するにしても、何万という単位のウルタニア市民をすべて移送するには途方も無い時間が必要となる。
対してゲネポスの群れは真っ直ぐにこちらに向かってきており、今夜にもウルタニアに到達するだろうと思われた。その動きに乱れは無く統率を保ったままであり、改めてウルタニアを「獲物」として見据えていることを感じた。
「奴らの足音が聞こえてくるようですな。」
ウルタニア城の公務室では、フーゴとグラニコスが向かい合っていた。フーゴの少し後ろではシルヴィアが腕組みをして窓の縁に腰掛けている。
おそらく今のウルタニアで一番の戦力であり、信頼も篤い彼女をフーゴは護衛のようにしていた。
「そのようだな。まさか今の時代になってモンスターの襲撃を受けることになるとは、考えもしなかった。」
グラニコスは頷いた。その口元は引き締まり、頑固な顔立ちはさらに強張っている。
「避難は、市民の乗り込みが済んだ船から順次出航することになっています。
問題は防備ですが、この街は全体を城壁に守られていると言っても、正門以外では大人二人分の高さもありません。低い部分には急ごしらえの柵を作らせているのですが、到底間に合わんでしょうな。」
「城壁を跳び越えて来るかもしれないということか。
私は実際に見たことはないが、シルヴィア、奴らはこの街の壁を跳び越えられるのか?」
シルヴィアは俯いてウトウトと頭を揺らしていたが、フーゴに声をかけられると動きを止めた。しかし顔を上げはしなかった。
「それぐらい、あいつらなら跳べるだろうよ。柵だってすぐに倒されちまうさ。」
「・・・そうか。ありがとう。」
もちろんフーゴは市街戦となることも想像してはいたが、ウルタニアを囲う城壁がゲネポスを防いでくれるのではないかと、どこかで期待していた。シルヴィアの言葉で、改めて事態の深刻さを思い知らされるようだった。
フーゴは再び正面のグラニコスに視線を戻した。
「柵作りを急がせながら、兵の戦闘準備も整えるようにしてくれ。見張りの者にも今夜は篝火を絶やさず
、奴らが見えたらすぐに知らせるように。
私は、今夜はずっとここに居るつもりだ。」
時刻は既に夕方である。窓からは傾いた日が直接差し込んできて、3人の長い影を作っていた。フーゴは、今までのウルタニア史上に無い一大事を前にして、少しでも休もうという気にはならなかった。
グラニコスは軽く一礼してから、いそいそと部屋出て行った。
張り詰めたフーゴの心境とは裏腹に、後ろからは小さく寝息が聞こえてきていた。
ひっそりとカウンター置きましたw