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フーゴはすぐに城壁へと向かった。
街には半鐘がけたたましく鳴り響いている。この半鐘が鳴れば、市民はウルタニア城と船着場のある街の東側に避難することになっていた。市民を守りやすくするためだ。兵士もその地区に集中的に配備し、急ごしらえだがバリケードも設置して道々を封鎖してある。
往来は非難する市民で溢れかえっていた。彼らの中には身一つの者も居たが、多くは多少の家財を持ち抱えていた。すぐにはウルタニアに戻れないことを覚悟してのことだろう。
ウルタニア城から真っ直ぐにインドラ通りを降ったところに、正門がある。この付近の城壁は、ウルタニアでは一番高くなっている。いつも通りに歩けば2、30分ほどかかる道程を、フーゴは10分もかけずに走りきった。
正門の上の見張り台に続く階段を登りきると、城外に煌々と焚かれた篝火のずっと向こうに、うごめく影が見えた。ぎゃあ、ぎゃあという甲高い鳴き声が小さく聞こえてくる。影は重なり合って、一体となって見えていた。まとまりはこちら向きに鋭くとがっており、おそらく群れのボスとなる存在が先頭を走っているのだろう。
立ち尽くすフーゴの下に、数名の兵士と2名の地元ハンターを従えたグラニコスが近づいてきた。
「いよいよですな。
城壁全体には200名の兵士を配しております。まずボウガンと投石で城壁上から応戦し、城壁が破られた時点で市街戦に移る予定です。物陰などを利用してボウガンと剣で戦い、奴らを撹乱しながら少しづつ数を減らしていくのです。」
グラニコスは片手に持ったボウガンを掲げて見せた。フーゴにはそのボウガンの名前までは分からなかったが、木と鉄、それに竜骨と呼ばれる素材から出来た、よくある簡素なボウガンだった。
フーゴは頷いた。ナスティへの避難を決め込んだ今なら、ゲネポスとまともにやりあって損害を大きくする必要は無い。避難までの数日、時間が稼げさえすればいいのだ。
フーゴとグラニコスが群れの様子を眺めていると、シルヴィアが階段を駆け上がってきた。
先程までのローブ姿ではなく、「ハンターシリーズ」と呼ばれる防具を身につけている。レギンス、肩当て、胸当て、篭手を厚めの鉄板で固め、それ以外を皮革や麻布でこさえたこの防具は、防御力よりは動きやすさを重視したものだった。軽量で安価なため、駆け出しのハンターがよく用いるものである。
また、その背中には鉄製の大剣「アイアンソード」が帯びられていた。大人ほどの背丈がある武器だが、大剣としてはその大きさは普通だ。これも安価な武器で、重い割に切れ味は悪い。
良い装備とは言い難いが、ウルタニアですぐに用意できるものはこれしかなかった。
「あたしを外に出してくれ。時間くらいは稼いでやるよ。」
シルヴィアが、さも当然であるように言った。重い武器を抱えてここまで駆けてきたというのに、息が上がった様子は全く無い。
「しかし、大丈夫なのか?」
「当たり前だろ。あたしを信じないの?」
ふん、と鼻で笑うのが聞こえた。
いくらシルヴィアがギルドナイトだといっても、この装備で群れに立ち向かえるとは思えなかった。彼女の実力が相当なものであることは分かるが、1人で外に出れば幾十ものゲネポスが覆い被さるように襲ってくるだろう。
「いくらなんでも危険・・・。」
「こちらは私達が守るゆえ、お前は他のハンター2名と共に、南の鉱石門の応援に回ってもらいたい。
あちらの守りは薄い。お前達の力がきっと必要になるだろう。」
シルヴィアを引きとめようとしたフーゴの言葉を遮って、グラニコスが言った。
「そっか、じゃあそうするよ。あんたも気をつけなよ。」
「うむ。おそらくゲネポスは昼には一度休むだろう。日が昇り始めたら、東側の我ら拠点に戻ってきてくれ。」
フーゴは、自分が二人の会話に口を挟むことも、シルヴィアを呼び止めることも出来ないように感じた。二人がウルタニアを守ることのみを考えているのに対して、自分はシルヴィアへの私情まで加味して考えてしまっているように思えた。
ウルタニアには、北西に向いた正門と南に向いた鉱石門がある。鉱石門は南部の鉱床から得られる産品をウルタニアに運び入れる目的で作られたものだが、付近は城壁も低く、防御に向いたものではない。今回もすぐに敵味方入り混じった乱戦が展開されるだろう。
そんな場所だからこそ、彼女の力が必要だった。フーゴも彼女を鉱石門に置くことを考えなかったわけではないが、「危険すぎる場所に彼女を向かわせたくない」という気持ちがどこかに存在し、その結論を避けさせていた。
(彼女のことを考えすぎていたのかもしれないな。私は私である前に、ウルタニアの領主であるべきなのに・・・。)
フーゴは何も言わずに、階段を降りる彼女の後姿を見送った。
篝火の向こうに見える影は着実に近づきつつあり、その大きさを増していた。
ひっそりとカウンター置きましたw